色盲

無知なので知っておく。
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脳内では、分光吸収特性の異なる数種類の錐体細胞の出力信号の差が他の知覚や過去に得た経験に基づき調整されて、初めて色として解釈される。色は我々の神経系の中で作り出されているのである。

光の色は各錐体の興奮の相対比によって識別されているのであるから、我々の色の弁別能力は、我々がどのような分光吸収特性を示す視物質を有しているかに依存している。

赤オプシンと緑オプシンでは364 個のアミノ酸中15 個だけが異なる。

鳥類、爬虫類、両生類、魚類といった脊椎動物では、錐体視物質を 3ないし 4種類有する 3色型色覚もしくは 4色型色覚を持つ動物が多く知られている。

点突然変異によるタンパク質の機能喪失やプロモーター領域の変異による発現不全など、他の遺伝子でよく見られるような遺伝子内変異に該当する例は少ない。赤緑色盲のほとんどは、赤および緑オプシン遺伝子間の相同性の高さと 2つの遺伝子が隣接して配置していることから生じる、不等交叉による相同組換えによるものである。

赤緑色盲は単純な遺伝子検査では診断できない。

赤オプシン遺伝子と緑オプシン遺伝子を1コピーずつしかもたず、かつ現行の色覚検査で「正常」と診断された男性のうち、25%がハイブリッド遺伝子を持っていたという調査結果がある。このような「運良く正常」と診断された人々と「異常」と診断された 5%の人を加えた日本人男性の 30%は、程度の差こそあれ、他の 70%の人と異なる色覚を有していると言える。

2 色型色覚(強度の第1色盲と第2色盲)では、赤〜緑と青〜紫にかけての色の弁別が困難だが、緑〜青にかけての弁別には支障がない。

白地に黒い文字列の中で、強調したい文字を赤字にすることはごく普通に行われているが、濃い赤を用いると第1色盲の人には黒文字とほとんど区別がつかず、まったく強調されて見えない。白地であれば文字が読めるだけまだましであるが、PowerPoint やカラースライドで黒や紺、濃い青色の背景に「濃い赤」の文字があると、文字が目立たないどころか読むことさえできない。

赤と緑の蛍光二重染色の画像を理解するのは、赤緑色盲の人には至難の業なのである。

青色への感度は高い。

「色」には大きく分けて、色相、明度、彩度の 3つの要素がある。このうち錐体細胞が 3種でなく 2種になることで影響を受けるのは、色相に関する判断だけである。

コンピューターのグラフィックソフトでは、文字や図形の色をカラーパレットから選べるようになっている。色盲でない人は一目見て赤や緑や茶色を選ぶことができるが、これは色盲の人には至難である。慣れた人はカラーパレットを一切使わず、直接 RGB値や CMYK値を調整して、どのような色になるかを頭で考えて指定することも多い。

R、G、B = 0、0、0% が黒で、100、100、100% が白となる。RGB 表現で緑に赤を足すという場合、G の値をそのままにして R の値を増やすことを意味するが、これは緑の絵具に赤の絵具を混ぜるのとはまったく異なる結果になる。RGB 値によって指定した色は、実際の画面でどのような色に表示されるかが機械ごとに大きく異なってしまう。このような指定法を機種依存(device dependent) な色表現と言う。

CMYK の値は、印刷機で 4色のインクをそれぞれどの程度の濃さで刷るかを示した数字そのものである。

光源色と物体色。表面色と閉口色。

「茶色」や「肌色」は、物体表面の色としてしか知覚し得ない色である。黒い紙にあけた小さな穴を通して、物体の色とは意識しないようにしながら光源色モードで見ると、茶色は彩度の低い暗いオレンジに、肌色は彩度の低いオレンジにしか感じられない。

物体色を厳密に定義するのに昔から使われてきたのが、画家であった A. H. Munsell が最初に提唱したマンセル表色系 (Munsell color system) である。この方法では色を概念的な要素に分類し、色あい、明るさ、色の鮮やかさの 3要素で表わす。

マンセル表色系を用いると、表示装置に関係なく機種非依存的 (device independent) に、物体の色を色相、バリュー、クロマの 3数値で厳密に表わすことができる。JIS 規格では、これと後述の CIE xy 色度 を利用して道路や安全標識などの色を規定している。

色に関する基準を国際的に管理しているのが国際照明委員会 (Commission Internationale de l'Eclairage; CIE) である。CIE は 1931年に表色系に関する規格を定めた。まず定義しやすい 3原色として、赤には知覚の実用上限である 700nm、緑と青には水銀ランプの輝線波長 546.1nm と 435.8nm を用いて、この 3者の配合比で色を座標表示することとした。また 3原色の強度は絶対的な光の強度そのものでなく、混合した色が色温度 4,800K の白色に見えるときに必要な各色の輝度を 1とし、それに対する相対比で表わすこととした (刺激値と呼ぶ)。この方法で色度を規定するのが CIE 1931 RGB 表色系である。これによりすべての色は三次元空間上の一点として表わせる。

CIE 表色系が人間に知覚可能なすべての色範囲 〔色域、ギャマット (gamut) 〕 を表わせるのに対し、コンピューターの RGB 色表現や印刷の CMYK 色表現ではごくわずかな範囲の色しか表現することができない。

単一の明るさに限られた xy 色度図の平面内で色の割り振りを考える限り、すべての人への対応は困難である。したがって色覚バリアフリーは、実は色の組み合わせを考えるだけでは実現不可能であり、明度を変化させたり、色でなく形の情報を組み合わせるなどの対策が不可欠である。

先天色盲を治療するというのは、AB型の血液型を A型に変えるのと同じで、個人の体細胞の遺伝子を改変しない限り原理的に不可能である。

白黒なら 90%と 100%でも十分にシグナル強度の差を再現できるが、緑では 60%程度ですでにシグナルが飽和してしまい、100%との差がわからなくなる。染色の強度分布をなるべく正確に伝えたい学術写真では、この欠陥は致命的である。蛍光以外の標本においては、図版の作成に当たって色覚バリアフリー化のために配慮すべき点は特にない。

最も大切なことは、そもそも読者や聴衆に、区別が必要な情報を色だけに頼って識別することを強制しないことである。「色なしでも理解できるようにデザインし、その上で強調のために副次的に色を添える」という工業デザインの黄金律は、学術論文の図版にもそのまま適用できる。

最近はハッチングを施したグラフを見ることが非常に少なくなった。しかしつい 10年ほど前までは、研究者はロットリングや烏口を握りしめ、スクリーントーンを切り貼りして、実線点線やハッチングを組み合わせて見やすいグラフを描くことに苦心してきた。グラフ等の図版における色覚バリアフリーの問題は、むしろコンピューターが進歩して誰でも容易にカラーの図が作れるようになったここ数年で、状況が急速に悪化している。私たちが図版で伝えたい情報の量は、カラーがなかった時代に比べて飛躍的に増えているわけではない。原点に立ち返り、まず色がなくてもメッセージが伝わるよう白黒でグラフをデザインし、後から装飾としての彩りを加えることで、見栄えとわかりやすさを両立させた図版を作成することが望まれる。

色相の 0度、すなわち RGB=(100%、0%、0%)のような「純粋な」赤は、黒と間違われるので使わないほうがよい。色盲の人にも見やすく、ひと目で「赤」とわかってもらうためには、黄色みの多い朱赤やオレンジに近い赤を選ぶとよい。

彩度の高いオレンジは、xy 色度図の縁の線が右上方向に最も膨らんだ部分に位置している。したがって連載第2回図19 の混同線を見ても、赤緑色盲の人にとっては他の色と間違えることがない非常に見やすい色である。

「赤緑色盲の人にとって、黄色と黄緑色は同じ色」黄緑はなるべく避けたほうがよい。

色相 120 度付近の緑は、画面では黄色と区別がつかず、印刷すると赤と区別がつかないので、絶対に避けたほうがよい。一方同じ緑でも、色相で 150〜160度あたりの青みの強い緑は、色盲の人にも赤や黄色と混同することなくひと目で「緑」とわかる。ぜひこのような色を使うとよい。

赤から緑のほとんどの色が、色盲の人にとっては茶色の一種のような色に見えている。このため茶色は、明るさや鮮やかさによって赤、黄色、黄緑色、緑色など様々な色と非常に混同しやすい。明解な弁別が重視される図版には、なるべく使わないほうがよい。

装飾効果だけが目的の場合には、むしろ自由に色を選んでよい。
また PowerPoint などの発表では、単調な白や青の背景に文字や図形だけカラフルな色を使った発表を見かけるが、むしろ淡いパステルカラーの背景に地味な色合いの文字や図形を組み合わせたほうが、視認性に影響することなく、カラフルな印象を与えることができる。